
Artist statement
見えないものを見、聞こえないものを聞くことができた子供時代、世界はなんと奇妙で、驚きと喜びに満ちていたことでしょう。その頃の自分と目を合わせてみれば、そこに物語が立ち現れます。
これまで描いてきた作品を振り返ると、子供の頃に触れた童話や小説の影響が色濃く反映していることに気づかされます。物語に綴られたひときわ美しく、心打つ一文は、豊かなイメージを私にもたらし、どこか遠くの別世界へと連れて行ってくれるのです。
私の作品も、観る人の想像力を刺激する一つの物語のように記憶されれば…。そんな思いで制作しています。
山口 暁子

菊慈童
「菊慈童」とは、周の時代、帝の怒りにふれ秘境へ追放されたのち、経文を書き付けた菊の葉の露を飲んで不老不死を得たという伝説の侍童です。能の曲目のひとつで、不老長寿のめでたい曲目として演じられます。
私の作品ではこの伝説を独自に読み替え、生への愛惜をテーマとしました。童が季節外れの赤トンボに自らの姿を投影し、物思いにふける様子を描いています。
Dialogue
「人間の心を特定の方向に導き、憎悪と破壊という心の病に冒されないようにすることはできるのでしょうか?」――アインシュタインの手紙より
断絶と排斥が繰り返される世の中、対話の必要性が叫ばれて久しいですが、そのためにはまず相手に対し誠実であること、同時に自分の言葉で語ることが大切なのではないかと考えるようになりました。
あやとりをする少女たちに「終わりなき対話の姿」を重ねています。
